日本能率協会審査登録センター(JMAQA)は、マネジメントシステム規格の基本となる『ISO9001』をはじめ、企業や団体などの皆様からの要望に応じて、幅広い分野の審査登録/認証サービスに対応しています。本稿では審査登録センター 副センター長の伊藤新二がJMAQAの理念と審査の特徴、そして今後の展望についてご紹介します。
日本能率協会審査登録センター(JMAQA)では、品質マネジメントシステムが創設された当初から、審査業務に取り組み、環境マネジメントシステムなど、企業のニーズに対応して、幅広い業界のISOの審査体制を整えてきました。最近は、食品に関する審査が大きく伸びています。
JMAQAの審査の特徴は、審査業務を通じて企業の経営者や管理職の方々自身に課題点について気づいていただき、企業にとってのお客様、そしてその先に広がる社会へさらなる貢献をしていただけると考えていることです。
「審査」というと、基準に適合しているかどうかを判断するだけだと思われがちですが、JMAQAの審査の理念は決してそうではありません。審査を通じて、企業の考え方を見直す機会をつくることを大切にしています。
ISOで審査するマネジメントシステムの「状態」というのは、自社では分かりづらいものです。第三者機関のJMAQAだからこそ企業の状態を浮き彫りにする診断ができ、それを真摯に受け止めていただくことで改善につなげられるのです。
身近な例で言えば、私たちも定期的に健康診断を受けます。日常生活を送れている状態であっても、第三者の診断を受けると数値に異常がある場合があり、それは放っておくと病気となるおそれがあります。健康診断は身体の状態を客観的に理解し、医療機関を受診して改善していく「きっかけづくり」と言えるのです。
企業の審査も同様に「きっかけづくり」です。ですから、私たちは審査の結果が悪くても躊躇なく、きちんとお伝えすることを徹底しています。もちろん、審査の担当部署は抵抗感を覚えますし、その結果を素直に受け止められる経営者の方々ばかりではありません。しかし、私たちが躊躇して伝えることを控えてしまうと、困るのは審査を受ける企業であり、その先にいるお客様なのです。
私たち自身も、「JMAQAは何のために審査活動を行うのか」を日々、確認しながら、正確な審査ができるよう学びを続けています。
JMAQAの審査の特徴としては、まず最初に審査の「視点」を確認することから始めています。ISO認証を受ける企業には、「取引先の条件として認証が必要」「商材の品質管理を向上したい」「経営計画に沿った活動ができているか確認したい」などさまざまな目的があります。ですから、審査のオープニング会議の段階では、経営者と担当する事務局と共に審査の視点をきちんと確認し、「会社の思い」を共有することから始めています。
とりわけ、経営者から審査の目的を指示していただくことが重要なポイントです。企業の活動において、経営者が何か懸念していることがあっても、その思いが現場に届いているかを確認するのは困難なことです。また同様に、現場の課題が経営者に届いていない場合もあります。ISOをはじめとする審査を活用し、目的を明確にすれば、経営者と現場が企業活動の状態を共有することが可能なのです。
担当するJMAQAの審査員は、当然、企業の業務内容を理解しなければなりません。JMAQAは特定の業界を対象とした団体ではありませんので、多種多様な業種への対応が可能です。経験豊富な審査員がいますので、実際に審査を受けた企業からも「自分たちの業界に長けている」「メーカーの事情に詳しい」「事業内容をいち早く理解してくれた」といった評価をいただいています。
認証の要求事項には、企業の活動を明らかにすることが求められることが多々あります。私たち審査員は、その要求の目的を明確にして、分かりやすく伝えます。要求の真意を明確にできれば、企業側も何をすべきかを明らかにできるのです。
審査活動を通じて徹底しているのは、企業の担当者の方々に気づいてもらうことです。私たちは審査活動を通じて、その企業に不十分な点があることに気づきます。何を改善すればよいか「答え」を伝えることは簡単です。しかし、私たちはあくまで審査機関であり、コンサルタントではありません。あくまで、審査というプロセスを通じて、担当者の方々に「自分たちに何が必要か」を気づいてもらうことを徹しています。
ですから、改善すべき点が分かっていても「この部分に関する規則はありませんか」「もういちど社内を確認してみましょうか」と考えることを促していきます。ある意味では、経営改善へのきっかけや気づきを提示することが私たちの仕事であると思います。
難しいのは、質問をしたときに「そういった規則はありません」と言い切られる時です。つい、「それはおかしいので、何か規則があるはずです」と言ってしまいがちですが、企業には社員自身が把握していない規則や手順がある場合もあります。ですから、言葉を額面通りに受け取るのではなく、コミュニケーションを通じて問いかけて、社内の実態を確認してもらい、「じゃあ、その規則をしっかり活用していきましょう」と理解してもらうことが理想とする着地点だと思います。
企業は今、厳しい社会情勢に対応するために、さまざまな改革を実施しています。無駄をなくすことも大切ですが、時にそれは「行き過ぎ」を生じることもあります。
ある企業が社内のシステムの一部を大きく見直しました。そのマンジメントシステムには多くの法律が絡んでいたのですが、大きく変えたことで守るべき必要な法律がそぎ落とされ、不十分な状態になりました。審査ではその点を指摘しました。法令順守は企業の基本です。ただし、見直しを推進している部署が、そういった指摘を素直に受け止められない場合もあります。
JMAQAの審査では、企業の経営者に直接、審査内容を伝えています。見直しを推進している部署にどのような事情があっても、現在の法順守に関する情報の良否の判断は経営者自身が行います。上記の事例では、経営者が事情を重く受け止め、大号令をかけて法令順守の仕組みの見直しを徹底させました。
JMAQAの審査員は日々、企業の経営者とお会いして、審査への要望をお聞きし、そして最終結果を経営者にお伝えしています。これほど日々の業務で経営者に会える職種もないと思います。さまざまな思いを抱えながら、日々の事業に励まれている経営者の方々にお会いできて、真剣にその会社のことを考えて審査に臨む仕事は、本当にやりがいがあります。
日本能率協会には数多くの企業に参画していただいています。今後は、JMAQAの審査に対するスタンスをより明確にお伝えして、企業の持続的な活動に寄与する審査を幅広く提供していきたいと考えています。
審査業務において最も重要なスキルはコミュニケーションです。産業界の経営革新に寄与するという日本能率協会の理念を踏まえながら、日々、研鑽を積み、企業の継続的な社会貢献に必要な「気づき」を提供していきたいと思っています。